ストレス学者のハンス・セリエによれば、「ストレスとは、エネルギーの発生状態である。周囲に起こった出来事に対して心身がその状態に適応しようとエネルギーが発生している状態をいう」とのことです。
ストレスは、もともとは物理学用語で「ひずみ」を意味しています。このひずみが元に戻ろうとするエネルギーが働いている状態がストレスです。
ストレスレベル・ストレッサー・ストレスサイン
ストレスを理解するためには、1)ストレスレベル 2)ストレッサー 3)ストレスサイン を理解する必要があります。
ストレスは、エネルギーですから程度があります。このストレスの程度のことを「ストレスレベル」といいます。
ストレスレベルを上げる要因のことを「ストレッサー」と呼びます。例えば、困難な仕事、嫌な人、仕事のノルマ、期限などです。
ストレスレベルが高まって現れる心身のサイン(兆候)を「ストレスサイン」と呼びます。例えば、イライラ、不安、動悸、胃の痛みなどです。
ストレッサーとは何か?
ストレッサーとは、ストレスを引き起こす要因のことをいいます。
ストレッサーは、以下の4つに分かれます。
1.物理的ストレッサー:暑さ、寒さ、騒音、環境汚染、長時間労働など
2.科学的ストレッサー:酸欠、栄養不足など
3.生物学的ストレッサー:ウイルス、病原菌の侵入など
4.社会・精神的ストレッサー:人間関係、経済状態など
今日、最も問題なのは、職場の人間関係などの精神的ストレッサーでしょう。平成14年の「厚生労働省の労働者の健康状況調査」によると、ストレスを感じる労働者の割合は61.5%、その中で最も多いストレッサーは職場の人間関係(35%)となっています。
ストレス反応の生理学的メカニズム
ストレスを発生させる状況が起きると、私たちの体は主に3つのシステムを使って、そのストレッサーに対処しようとします。
その3つのシステムとは、1)自律神経系 2)内分泌系 3)免疫系 です。
1.自律神経系
自律神経は、交感神経という活動型神経と副交感神経という休息型神経のバランスで内臓の働きを調整しています。
ストレスを感じる状況では、交感神経がまず興奮し、数秒以内にアドレナリン(怒りのホルモン)やノルアドレナリン(不安・緊張のホルモン)が大量に分泌されます。その影響で、心拍数、呼吸数、血流量が増大し、血圧も上がります。酸素を含んだ血液は、危機に立ち向かうために大切な働きをする脳や心臓、大きな筋肉に、優先的に送られます。いわゆる臨戦態勢に入ります。全身の筋肉は緊張し、首や肩がこるのはもちろん、声帯の筋肉も緊張するので、声が震えることもあります。
一方、ストレスを感じる状況では、主に副交感神経の支配を受ける消化器系の働きは低下します。胃腸のぜん動運動や胃液の分泌が低下し、その結果、胃のもたれや口の渇きが起こります。さらにストレスが続くと、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、下痢や消化器の出血を導くことがあります。
2.内分泌系
ストレスを感じる状況下ではグルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)や性ホルモンが緊急事態に対処するために放出されます。これらのホルモンは、抗炎作用、抗ショック作用を持っています。また、体のエネルギー源となるブドウ糖を血液中に送り出します。その結果、攻撃性や活動性が増大します。
3.免疫系
免疫系はアドレナリンの分泌を受けて免疫機能を増大させます。
ストレスと疾病
ストレスを感じれば誰でも、上記のような反応を起こします。この反応は、生体として自然な反応で、病気の症状でも病気でもありません。しかし、このストレス反応が、長期間持続したり、ストレスレベルが高すぎる状態になったりすると、様々な障害や疾病に発展していく可能性が強まります。
ストレス反応のプロセス
ストレスには次の3つの反応プロセスがあります。
1.警告期
2.抵抗期
3.疲憊(ひはい)期
1の警告期は、ストレッサーに直面し、身体にショックを受けている時期です。自律神経系のシステムが活性化され、一般的には、肩こりがひどい、消化不良という程度の症状が出てきます。
2の抵抗期になると、ストレッサーに対する抵抗力が増して、一時期ですが、一見バランスの取れた安定した状態になります。しかし、この時期に入ると、回復が遅くなり、朝起きてもさわやかでない、体が重いといった状態になり、免疫や活力の低下も見られます。
2の時期までに、適当な休養やストレスのマネジメントがないと3の疲憊(ひはい)期を迎えてしまいます。この段階では、いよいよ、抵抗力が下がり、心身に様々な症状をもたらします。例えば、胃・十二指腸潰瘍、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、神経症などのストレス障害が起こります。
疲憊(ひはい)期を迎えてしまう前に、警告期に現れるストレスサインに気づき、そのときのストレスレベルを知っておくことが大切です。
ストレス・コントロール
ストレスをコントロールするためには、まずストレッサーを特定することが大切です。
そして、ストレッサーが特定できたら、それに対する対処法を考え実行していきます。
StressScanは、心身の健康のリスク要因としてのストレッサーを特定します。また、StressScanの特徴は、対処法(行動計画)を立てる上で、心身の健康を維持し、増進するために個人個人が持っているリソースも特定しますので、リソースを利用して具体的で実現可能な行動計画が立てられます。
ストレスに対する対処法は3つあります。
1. 無くす
ストレッサーを無くす、或いは減らすことで、ストレスに対処できます。例えば、仕事量が多すぎることがストレスレベルを高めている場合、その仕事を上司に頼んでほかのメンバーに分散してもらうなどの行動をとることがストレッサーを無くす、或いは減らすことにつながります。
2.(相手を)変える
ストレッサーが、もし変えられるのであれば、ストレスレベルを下げられる可能性があります。例えば、上司がいつも無理難題を課しているが、そのときにただ黙ってこらえて「はい。わかりました」と聞いていることが過剰ストレスの原因である場合には、上司に自分の思っていることを話して、自己主張してみる、そうすることによって、上司の接し方が変わればストレスレベルは下がるかもしれません。
3.(自分が)変わる
この方法は、相手には関係なく、自分で自分を変えることです。StressScanレポートに記載されている「健康上のリスク」要因に優先度をつけ、自分でできるものを実行する計画を立てていく、ことは主にこの対処法です。
ストレスとは何か?